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The Golem ザ・ゴーレム

イスラエル映画 (2018)

この映画を観るまで、ゴーレムというのは映画が作り上げた怪物だと思っていた。しかし、その起源は非常に古く、旧約聖書の「詩篇」の第139章の16の先頭に使われている「גָּלְמִי 」という単語、すなわち、「golmi; my golem」に遡るとされている。ゴーレムを実際に創ったとされる伝承は、16世紀後半に2つ現れる。1つはポーランドのヘウムという町のラビEliyahuが創ったというもの、もう1つはチェコのプラハのラビMaharal〔映画でも言及されている〕が創ったというもの〔何れも伝承だけで、当然だが証拠はない〕。ただ、何れにせよゴーレムは粘土の塊で、この映画のように「表面は土で覆われていても、洗えば人間と同じ」というようなものではない。それに、サイズも巨大で、この映画のような小さな子供ではない。過去の映画では凶暴な存在だったが、ユダヤ教におけるゴーレムは決して凶暴な存在ではない。後世に書かれたプラハのゴーレムの事後談の幾つかに、失恋して凶暴になったとか、扱い方を間違え殺人鬼になったというものもあるが、本来はどちらかというと大人しいロボット的な存在であったらしい。この映画はイスラエル製だが、ゴーレムはユダヤの発明なので、それが母国で映画化されても不思議はない。ただ、映画の舞台となるのは1673年のリトアニアで、偶然ながら、つい最近紹介した『Ashes in the Snow(灰色の地平線のかなたに)』(2018)もリトアニアの話だった。リトアニアは、杉原千畝がユダヤ人を救ったことでも有名だが、この映画では、ユダヤ人がリトアニア人から迫害を受ける〔当時は、ポーランド・リトアニア共和国〕。それを救うのが少年ゴーレム。ユダヤのゴーレムの伝統に則り、この少年ゴーレムも、自分を創ったハンナという女性には絶対的に服従し、何があろうと守ろうとする。面白いのは、感情や感覚まで共有している点。だから、ハンナが針で指を指すと 少年は痛みを感じるし、逆に少年が銃で撃たれるとハンナも衝撃を感じる。ハンナが嫉妬すれば、少年は相手の女性を平気でバラバラにする。この歯止めの効かないところが怖い。ただ、ハリウッド映画ではないので、暴力を見せることが映画の目的ではなく、創造者のハンナが最後に少年をどうするのかが焦点となる。

リトアニアの人里離れた田舎に住むユダヤ人の村。その村には、ラビの息子ビンヤミンとその妻ハンナの夫婦が暮らしていた。しかし、ハンナは息子を亡くして以来、二度とその悲しみを味わいたくないと思い、夫の希望とは裏腹に、村の癒し手ペルラに頼んで妊娠しないように薬を塗り続けていた。ハンナの妹のリベカの結婚が近づき、2人して森の中の川の淵に泳ぎにいったのが災厄の始まりだった。2人はそこで、その地を支配するキリスト教徒の人々が疫病にかかり死体が山積みになっているのを目撃する。そして、逆に、相手にも見られてしまう。キリスト教徒の首領ブラッドミアは、疫病はユダヤ人の呪いが原因だと思い込み、病に倒れた自分の娘を連れてハンナの村へ行き、呪いを解かないと皆殺しにすると威嚇する。癒し手ペルラは自分が治してみせると言って、娘を引き取るが、ブラッドミアの一行は治るまで村に留まり、住民が村から出ることを禁じる。ハンナは、息子が死んでから、ユダヤ教の異端の教えカバラに興味を持ち、こっそり勉強してきたが、妹がブラッドミアの部下に殴られて流産すると、復讐のためシナゴーグに押し入り、ついにゴーレムを創り出す秘義を見つけ出す。ハンナは森に行き、書かれた通りに実行し、結果としてゴーレムが誕生する。森に作った土盛りが小さかったので、出来上がったのは子供のゴーレムだった。最初ハンナはゴーレムを恐れていたが、表面の泥を洗い落として中からきれいな男の子が出てくると、昔亡くした息子の替りだと思って可愛がる。2人の間には感情と感覚のつながりがあることも分かり、ハンナの愛情は増して行く。歯車が狂い出したきっかけは、息子を亡くして7年間子供ができなかったことから疎遠になったビンヤミンが、多産の後家と仲良くしているのを見て嫉妬心を起こしたこと。ゴーレムはそれに反応して後家を惨殺する。また、ゴーレムの存在を知った癒し手ペルラは、土に戻すよう要求し、断られると、ブラッドミアが村から出て行くまで猶予することで妥協する。後家がブラッドミアの部下に殺されたと勘違いしたビンヤミンらが抗議に行き、殺されかけ、ゴーレムに救われる。ハンナはブラッドミアに娘を連れて村を出て行くよう要求する。ブラッドミアがいなくなったことから、癒し手ペルラは勝手にハンナの家に入り込み、ゴーレムを土に戻そうとして逆に殺される。ペルラの惨たらしい殺害を知ったビンヤミンは、後家の殺害もゴーレムのせいだと確信し、父のラビと相談する。ラビは、カバラの秘儀でゴーレムを土に戻そうとするが、ちょうどその夜、娘を亡くしたブラッドミアが復讐のため村に軍勢を送り込んできた。ハンナは殺されかけ、それを感じたゴーレムは完全な怪物となって、ブラッドミアの軍勢だけでなく村人まで見境なく殺してしまう。すべてが灰になった焼け野で、ハンナはゴーレムの口に入れた秘儀の羊皮紙を抜き、泣く泣く土に戻すのだった。

ゴーレム役のKonstantin Anikienkoについては、発音も含め、情報は全くない。無表情というのは、結構大変だったろうと思う。


あらすじ

映画の冒頭、プラハのラビがゴーレムを創った経緯が簡単に述べられる。「歴史を通じて、わが民族は悪者扱いされ、迫害されてきた。だが、ある日、最も聖なるラビ、マハラールはカバラ〔ユダヤ教の非正統な個人的神秘主義〕の闇の奥に のめり込み、神のごとく命を創り出した」。映像では、引き裂かれた多くの人間たちと、シナゴーグのダビデの星の窓の下に佇む巨大な黒い物体が映される。ラビは、唸り声を上げる物体に、「落ち着け」と言いながら近づいて行き、「口を開けよ」と命じ、何事かを唱え始める。しかし、その背後から、母を殺された少女が、ガラスの破片を手に持ち、復讐しようと近づいてくる。ラビが、「灰は灰に、塵は塵に」と終結の言葉を告げた時、少女の気配にラビが気付く。物体は咆哮し、ラビの頭を粉砕する。そして、舞台は1世紀後のリトアニア。ユダヤ人の村の外れに暮らしてしている癒し手ペルラのもとをハンナが訪れる。ペルラは秘薬をハンナの女性器のどこかに塗る。「終わったわ。もう、起きていい」。ペルラは棚から別の薬瓶を取ると(1枚目の写真、矢印)〔薬の目的は後で分かる〕、「あなたの悪い7年は終わったのよ、もう良い7年を始める時」と言うが、ハンナは渡し渋る薬瓶を奪うように取ると、「ありがとう、ペルラ」と言って、出て行く。次の映像(2枚目の写真)では、この村がいかに孤立しているか良く分かる〔ただし、ペルラの家は 村と数百メートルしか離れていない〕。ハンナは、集落の中の道を歩いて自分の家に戻る(3枚目の写真)。ハンナは、歩きながら、赤ん坊を抱いている女性を何度も見るので、映画を観ていると、塗った秘薬ともらった薬は、赤ちゃんを産むためのものかと勘違いさせられる。

    

村の小さなシナゴーグでは、老いたラビが男性信者だけを対象に聖書の解説を行っている(1枚目の写真)〔13世紀のドイツやスペインの記録として、シナゴーグに女性専用の部分が設けられていたとあるので、なぜ17世紀のリトアニアで男性限定なのかは不明〕。ハンナは、こっそりシナゴーグの床下〔身長以上に高く、所々、床板に隙間がある〕に潜り込み、様子を窺う(2枚目の写真)。訓話が済んだ後、帰りかけた1人の男に、ラビが、「ビンヤミン、食べ物はあるのか?」と尋ねる。「ハンナが持ってきます」。「あれから7年が経つ。ハンナとは縁を切ったらどうじゃ。お前には、そうすべき権利がある。そして、義務を果たすべき〔子供を産むこと〕女性と出直すべきじゃ」〔ビンヤミンはラビの息子〕。しかし、ビンヤミンは、「俺は、妻を見放しません」と助言を受け入れない(3枚目の写真)。それをこっそり聞いていたハンナはニンマリする。ビンヤミンはラビがいなくなると、棚から1冊の本を取り、それを、シナゴーグを出たところに置かれた「食べ物の入った壷を並べるための台」の上にハンナが置いた大きな壷の中に入れる〔大きな本を持ったまま集落内を歩けない〕。ビンヤミンは、その後、いつも親しくしている後家さんのところに寄り、たくさんいる子供たちとひとしきり遊んでから 家に戻る。

    

ハンナは、壷から本を取り出し(1枚目の写真)、「本をありがとう」と感謝するが、夫は、「これが最後だ、ハンナ。カバラは あまりにも危険だ。これらの本は、読んだ男の気を狂わせるとも言われている。ましてや…」。「女が?」。「すまない。君を傷つけたくないんだ。いろいろあったから」。その夜、ビンヤミンはいつも離れているベッドを押して1つにする(2枚目の写真)。愛し合う前に、ハンナは隠しておいた薬瓶を取り出して(3枚目の写真、矢印)、それを外陰部につける。そして、2人は愛し合うが、ハンナは完全に醒めている。夫は、「きっと、これで子供が授かる、息子だ」と期待するが、ハンナは、無感動に「アーメン」と言っただけ。ここまで観てくると、いったい何の薬なんだろうと疑問に思えてくる。しかも、セックスを終えたばかりのハンナは、夫の制止を振り切り、新しい本を持って屋根裏に行き、読み始める。「聖なる文字の組み合わせは律法の中に隠れている。モーゼが紅海を分けた聖なる韻文…」。別のベージには、「メルカバー〔神の戦車〕。男の創造」なども言葉もある。

    

日は替わり、ハンナが妹と一緒に、村から離れた谷間の淵で泳いでいる。その後、岸の岩の上に座り(1枚目の写真)、ハンナが、「ママとパパが生きてて、あなたが結婚するのを見て欲しかった」と言うので、ハンナの両親は死に、妹は結婚が近いことが分かる。妹:「天から見てくれてるわ。あなたのちっちゃなヨセフと一緒に」。この言葉で、ハンナには昔、男の子が産まれ、子供の頃に死んだことも分かる〔ハンナは不妊症ではない。すると、薬の目的は?〕。その時、ハンナは、山の斜面に1人の黒い服を着た男がこちらを見ているのに気付く。男は、不気味な鉄の仮面を付けている。「戻らないと」。2人は森の中を歩いて行く。「キリスト教徒の土地に近寄りすぎたわ」〔すべての災厄は、2人の、この明らかに不注意な行動から始まる〕。途中で、大量の死人が運ばれ、捨てられている現場にぶつかる(2枚目の写真)〔なぜ、来た道を戻らなかったのか?〕。「黒死病だわ。また、拡がり始めたのね」。作業をしていた男たち〔全員が鉄の仮面を付けている〕が、2人の存在に気付く〔気付かれること自体 不注意〕。2人は逃げる。一方、ビンヤミンは馬に乗り、村から少し離れた野原に立てられた墓石のところに行く(3枚目の写真、矢印)。周りには花がいっぱい植えてある。墓石には、上部にダビデの星が彫られ、その下に「יוֹסֵף」〔ヨセフ〕、一番下に「תנצבה」〔ここに眠る〕と掘られている。ここは、幼くして死んだ息子の墓だ。彼は小石を唇に当て、墓に供える〔他にもいっぱい小石が置いてある/ユダヤ人の墓参の特徴〕

    

ハンナの妹リベカの結婚式(1枚目の写真)。相手はヤコブ。ラビは、「多くの子で、種のように地を満たしなさい」と言い、リベカにヤコブの周りを7回歩かせる〔先にも「7」という数字が出てきたが、7はユダヤでは非常に重要な数字(旧約聖書によれば、世界は7日で創られた→さらに起源を辿ればシュメール文明に到達する)〕。リベカが廻っていると、馬のいななきが聞こえ、先日会ったキリスト教徒の男が、1人の女性を腕に抱き、真っ直ぐにこちらに向かって歩いて来る。そして。その後を馬に乗った4人の男が付いてくる〔全員が鉄の仮面を付けている〕。4人の男は、馬から降りると、祝宴用に地面の上に置かれていた長いテーブルの上の食べ物を払い捨てる。すると、女性を抱いた男が空いたスペースに女性をそっと置く(2枚目の写真)。男は、仮面を外すと、「我が民は、1人ずつ、蝿のように死んでいく。貴様らが、祝っている間にもな」と言う。リベカは、「これは私の結婚式よ。なのに、私たちをこんな〔ペストの〕危険に晒して」と抗議する。4人の男の1人が、リベカの腹部を強打する。飛び出してきたヤコブには、拳銃が向けられる。ラビが、「何の おつもりじゃ?」と言いながら前に出てくる。男は、「この娘は、我が長女だ。貴様らは、男らしく戦うことなどできぬ。だから、貴様らの穢れた呪文で我が民を呪い、鼠の如く殺している」と告げる。ラビは、「私たちは、あなた方の大切な子供の病気には関与しておりません。病がこの村に及んでいないのは、孤立しているからです。神はお与えになり、神は奪われます」と述べる。男は、拳銃を上げると、たまたま前にいた男性の額の中央を射抜く〔男は火縄銃ではなく、火打石を使ったフリントロック式の短銃を使っている(17世紀後半の発明だから矛盾はない)。ただし、火縄銃と違い不発率は減ったが、狙って額の中央に当てるほどの精度はないハズ〕。そして、「貴様の呪文を逆転させ、我が娘を救わない限り、貴様らとその神とやらに目にもの見せてやる」と強く言う。その時、癒し手のペルラが、「私にお任せを。私は癒し手です。私の家に運んでいただければ、お役に立ちましょう」と名乗り出る。男は、「我が娘が治るまで、誰もここから離れるな。もし、村の外で捕らえたら、その場で処刑する」と告げ(3枚目の写真)、娘をペルラの家に運んで行く。

    

シナゴーグでは、男たちを集めて集会が行われる。ラビは、「これは予兆じゃ。我々は悔い改めねば。そして、神のご意志を受け入れよう。神の み名を褒め讃えるのじゃ」と話す。扉を少し開けて聞いていたハンナは、中に入り込み、強く反論する。「私たちは反撃すべきです。あなたを軽んじるつもりはありません。でも、祈る以外にもできることはあるはず。我々の最強の力を使うべきです」(1枚目の写真)。ラビは、「祈祷書で奴らの頭を叩けと言うのか」とバカにする。「聖なるカバラの知恵を使うのです」。「女が、カバラの知恵を語るとは、驚くべきことじゃ」。「カバラの72の神の文字を使い、創造の書に隠された符号に準じて、私たちで創るのです、ゴ…」。「ゴーレムをか? お前は、自分で何を言っておるのか、まるで分かっておらん! そのような知識をどこで聞きかじったのじゃ? わしには、カバラの途方もない力を御そうなどと企てる気は毛頭ない」(2枚目の写真)。ハンナは、「既に なされています〔マハラールのこと〕」と言い、さらに、「私がします」と言いきる。「お前がゴーレムを創ると言うのか? わしの息子に子供すら与えられなかったお前が?」。この、辛い言葉にハンナは言葉を失う。ビンヤミンはハンナの手を引いて扉から出すと、「家に帰れ」と命じる。翌日、リベカの病の報を聞いて ハンナは急行する。ベッドに横になったリベカの足には多量の血がついている(3枚目の写真)。リベカは、姉に、結婚前から妊娠していて、それが、腹部を強打されたせいで流産したと泣いて話す。これでハンナの決意は固まった。

    

ハンナは、夜、シナゴーグの資料庫に床下から侵入すると、これまで見たくても見ることのできなかった史料をひもとく(1枚目の写真)。そして、遂にキーとなる言葉の組合せを発見し、それを小さな羊皮紙に書いて丸め、祈りをこめた赤い紐で縛る。用意が整うと、真夜中の森に出かけ、地面を掘って「新鮮で使われたことのない土」を盛り上げて人間の形を作り(2枚目の写真)、額の部分に「אמת」〔真理〕と指で彫る(3枚目の写真、矢印、その下の2つの窪みが目)。そして、口の部分に赤い紐で縛った羊皮紙を挿入する。ランプの油を周囲に注ぎ、六芒星型〔ダビデの星の外辺〕に火が点けられる(4枚目の写真)。魔力のショックでハンナはその場で気を失って倒れる。

     

朝になって目が覚めると、盛り上げたはずの土はなくなり、逆に、人型の穴ができている(1枚目の写真)。何物かが創られ、立ち去ったのだ。家に戻ったハンナは、疲れを癒すため たらいのような湯船に入る。昔の記憶が蘇る。小さな男の子が池にうつ伏せ状態で浮かんでいる姿が一瞬映る。これが、死んだ息子のヨセフの最後の姿。すると、屋根裏で何かが走るような音がする。ハンナは、気になったので、布をまとっただけで、すぐに屋根裏に上がる(2枚目の写真)。屋根裏には、ヨセフの持ち物をいれた櫃(ひつ)が置いてあり、それを開けてみる。一番に目に入ったのは、ヨセフが大好きだった人形(3枚目の写真、矢印)。そっと取り出して、見てみる。人形を振ると、首についた鈴が鳴り、下の階で変な音がする。ハンナは櫃を閉める。夜になっても異常は続く。屋根裏で誰かが走っている音がしたり、それを確かめようと屋根裏に行き、再び櫃を開けるとヨセフの人形がなくなっている。足音は空耳かもしれないが、人形が消えたことは厳然たる事実だ。よく見ると、屋根裏の板張りの床には、泥のついた足跡もついている。一方、1階の寝室では、夫が足音を聞き、バイオリンが床に落ちているのを見つける。そして、何か隠れていないかとベッドの下を捜していると、薬瓶の入った袋を見つける。中には、セックスの前にハンナが使っていた薬品が入っていた。夫は、それが何なのかハンナを問い詰める。ハンナは、「別の子を失うことに耐えられなかったの」と白状する〔つまり、不妊用の薬〕。7年も待っていて叶わなかったのが、「妻が意図的に生まれないようにしていた」せいだと知り、夫は怒り心頭で家を出て行こうとする。「7年だぞ! 坊やが死んでから7年だ。その間ずっと、嘘を付いてたんだな? 7年も! 2人の間に子供ができないようにしてきた? 君は、ヨセフの墓に一度だって行こうとしないだろ。墓石の周りの石がぜんぜん増えてないからな。涙すら見せない。俺が、あの子を失ってどれほど打ち砕かれたか分からないのか? もう、うんざりだ! くだらん本なんかばかり見てる君の姿なんか、もう耐えられん。生活からも、現実からも逃げている」。彼が家を出て行った時の最後の言葉は、「君は女だ。生命を与える者。神は天職として君にそれを与え、君はそれを拒んだ。恥じるがいい」、だった。

    

翌朝、ハンナの目が覚めると、納屋で馬が暴れている。見に行くと、馬は何かに怯え、身を守るように2本脚で立ち上がっている(1枚目の写真)。ハンナが馬を鎮めていると、納屋の暗がりから鈴の音が聞こえる。何かがいる。近づいてみると、それは泥人形のような子供だった。そして、手にはヨセフの人形を持っている(2枚目の写真、矢印)。綱の外れた馬は、ハンナを押し倒して納屋から逃げて行く。よほど怖かったに違いない。起き上がったハンナが暗がりをもう一度見ると、そこには何もいなかった。そして、ヨセフの人形だけが残されていた(3枚目の写真、矢印)。

    

ハンナは、その後、理由はわからないが、森の中の穴を見に行く。すると、キリスト教徒の男3人に見つかり、追われる身に(1枚目に写真)。しかし、ハンナがどんなに頑張っても、大きな男の足の方が速い。すぐに捕まり、「村から出るなと言ったろ」と言いながら首に縄をかけられ、あっという間に、木の枝から吊り下げられる(2枚目の写真)。ハンナは、綱を手で緩めようと必死だが、体重でどんどん締まっていく。その時、下で何か奇妙なことが起きた。男たちが悲鳴を上げ、血しぶきを上げて吹っ飛ぶ。ハンナが失神する前に綱が切られ、地面に落下する。落ちた衝撃が収まり、何とか顔を上げると、あたり一面が修羅場だった。五体満足な死体は一つもなく、手だけ、足首だけというようにバラバラになり、地面は飛び散った血で真っ赤。そして、その手前に真っ黒な泥の人形が立っていた(3枚目の写真、一番分かりやすいのは、左下の斧をもった腕の先)。

    

泥人形は、ハンナに向かって歩いて来る。これだけの殺戮を犯したゴーレムなので、ハンナは恐れ慄くが、彼女の直前まで来ると停止する(1枚目に写真)。そして、右手を伸ばすとハンナの額に触れる。それでピンときたハンナは、ゴーレムの額を擦ると、泥が取れ、肌に「אמת」の文字が読み取れる(2枚目の写真、矢印)〔ゴーレムが芯まで泥でなく、人間の肌に泥がついているだけ、というのはユニークな発想〕。それを見たハンナは自分が本当にゴーレムを創り出したと分かり、思わず微笑む〔「ゴーレムが創造者に忠実」なことも、知っているに違いない〕

    

ハンナは、ゴーレムを納屋に連れて行く〔裸だと目立つので、簡単なシャツを着せているが、①どこで入手した? ②真昼なのに、村人に気付かれずにどうやって辿り着けた? という疑問は残る〕。ハンナは、「すぐ戻る」と言って納屋から出て行く。その頃、シナゴーグでは、ヤコブがビンヤミンに拳銃を見せ、「復讐する時だ。一緒にやらないか?」と囁く。動機は妻リベカの流産。そして、夜。「すぐ戻る」と言った割には、ハンナはゴーレムを半日ほったらかしにしている〔彼女は、どうみても暖かく優しい女性ではない〕。外は雷雨。彼女は、本を見ながら、「ゴーレムは防御だけに使うようにすべきである」「ゴーレムは進化する」と、文章を読んでいる。そして、ようやく納屋に様子を見に行く。中では、ゴーレムがずっと立って待っていた。ハンナは人形を見せ、「おいで、これ私の息子のよ。お前と同じ年頃だった」と声をかける。その時雷が鳴り、ゴーレムは見上げる。「心配しないで。ただの雷よ。一緒に家に行きましょ」(2枚目の写真、矢印は人形。一瞬の雷光でゴーレムがくっきりと見える)。ハンナは、ゴーレムをたらいに入れて、泥を落としてやる(3枚目の写真)。

    

まだ、洗い終わらないうち、背後から、癒し手が、「その子は何?」といきなり声をかける(1枚目の写真)〔断りなく家に入ってきたのも不自然だし、そもそもキリスト教徒の首長の娘の看病で忙しいはずなのに、なぜ雷雨の夜にわざわざ来たのだろう?〕。「やったわ。ゴーレムを創ったの」。「何てことをしたの」。「あの子は、私を救ったわ。素手で男たちをやっつけたの」。「無情な怪物なのよ。手遅れになる前に元に戻さないと」。「私たちの守護者よ。救済者だわ」。「あんたは、邪悪な世界と契約を交わしたのよ」。「他に選択はないわ。あんたには、あの娘は治せない。ブラッドミアとその一族が、私たち全員を殺し、村を焼き尽くしてしまうのは時間の問題なのよ」。そう言われると、癒し手には返す言葉がない。そこで、ゴーレムを見に行く。彼女が近づくと、ゴーレムの表情が子供から怪物に変わる(2枚目の写真)〔目が真っ黒になり、顔に血管が浮き出て赤く強張る〕。ゴーレムは、明らかに癒し手に敵意を持っている。攻撃しないのは、自分やハンナに危害を加えていないからだけだ。戻って来た癒し手は、「約束なさい。ブラッドミアが去ったら、羊皮紙をすぐに口から取り出し、あのゴーレムの子供を終わらせると」(3枚目の写真)〔羊皮紙に書かれた言葉が命の元なので、口から取り出すと土に戻る〕。ハンナは約束する。

    

癒し手が帰ってからも、ハンナはゴーレムの泥を落とし続ける。最後にハンナはゴーレムを長時間水の中に沈める。死なないと分かっているからだろうが、ゴーレムが何事もなく顔を出した時には思わず涙を流す。相手が無垢な子供なのでヨセフの代役として、心が惹かれ始めたのだろう。「もう少しちゃんとした服が要るわね」と言うと(1枚目の写真)、向かった先は多産の後家の物干し場。大量の子供服が、夜でも、そのまま干しっ放しになっている。綱にかけてあったズボンを盗った時、正面の窓から見えたのは、後家と夫と2人でいて、笑顔満面で話している姿(2枚目の写真)。ハンナの心は嫉妬で燃える。すると、離れた場所にいるゴーレムにも、その怒りが伝わる(3枚目の写真)。ハンナが盗ったズボンを握りしめると、ゴーレムも人形を握りしめる。ハンナはズボンを破り捨てて家に戻る。

    

そして、包丁を手に取るが、背後からゴーレムが近付いて来る(1枚目の写真、矢印は包丁)。ハンナはゴーレムの気配を感じて振り返り、その拍子に包丁が手を離れ床に突き刺さる。ゴーレムは、ハンナの気を鎮めるように人形を渡し、かすかに微笑む(2枚目の写真、映画の中で唯一子供らしい感情を示す貴重なシーン)。その笑顔に驚いたハンナは、思わず、愛しげに頬を撫で、抱きしめる(3枚目の写真)。これで、ゴーレムはハンナにとって愛しい子になった。

    

ハンナは、さっそく屋根裏に行くと、ヨセフの櫃を開け、「ףֵסוֹי」〔ヨセフ〕の名が刺繍された厚手の布を取り出し、それを切り張りしてゴーレムの服を縫い始める。ゴーレムは向かい側に座り、じっとそれを見つめている。ハンナは、愛しげにゴーレムを見ながら縫っていたため、手元が狂って指に針を刺してしまう。すると、ゴーレムの指にも同じような痛みが走る。ハンナの指からは血が出るが、ゴーレムは不思議そうに指を見つめている。その様子を見たハンナは、今度は意図的に針を指に刺してみる(2枚目の写真、矢印は針)。すると、ゴーレムは反射的に手を動かし、また不思議そうに指を見て〔当然、血は出ない〕、次に、ハンナを見つめる(3枚目の写真)。これで、ハンナには、2人の間に強い絆のあることが分かった。愛情はますます募る。縫い終えた服を着せるのも、わが子にするように優しさに満ちている。「今夜は寒いわ。家の中で寝ていいのよ」。その直後、床に突き刺さったままの包丁が映される。ゴーレムは「母」の怒りを忘れてはいない。

    

ビンヤミンは、後家のところで夕食をごちそうになっている。食べ終わったビンヤミンが、「とても美味かった」と言って席を立つと、美しい後家は、「私にできることは、本当にこれだけ?」と尋ねる〔子供を作ることはできないの、という謎かけ〕。「そうだ。ありがとう。祈祷に戻らないと」〔ビンヤミンは、ハンナの家では常時暮らさず、シナゴーグでラビの父と一緒の方が多いのかも〕。後家は、微笑んだままキスしようと近づいていく。真面目なビンヤミンは、「悪いが、できない」と断る(1枚目の写真)。戸口までビンヤミンを送っていった後家は、物干し場の方で不審な物音を聞き、干した着物の中に入って行くと、突然包丁が腹に刺さる。素早く抜かれた包丁は、次に後家の首に切りつけられる。翌朝、ハンナは外が騒がしくて目が覚める。何事だろうと駆けつけると、大勢の村人が後家の物干し場に集っている。ビンヤミンは、ハンナに「奴らは獣(けだもの)だ」と、苦渋に満ちた顔で言う。そして、ハンナが見たものは、地面に倒れた後家の惨たらしい血まみれの死体だった(1枚目の写真、矢印は切断された右腕)。ハンナが自分の家を振り返ると、物干し場の着物〔すべて白い布〕の隙間から、ゴーレムがじっと見ている姿が見える(2枚目の写真)。ハンナは犯人を悟った。家に戻ったハンナは、手に持ったものを掲げてみせるゴーレムに慄く(3枚目の写真、矢印はゴーレムが昨夜えぐり出した後家の心臓)。心臓を床に捨て、ハンナの方に歩いてくるゴーレムを見て、ハンナは恐怖に襲われるが、悪いことをして許しを乞うようなゴーレムの姿に、安心感とともに、自分の得た凄まじい力〔自分には忠実で、敵に対しては情け容赦のないスーパーパワー〕に酔いしれる。

    

一方、自分に良くしてくれ後家が、キリスト教徒によって惨殺されたと誤解したビンヤミンは、拳銃を持っているヤコブをシナゴーグに呼びに行く。ヤコブが現れると、「やるぞ」と戦闘への参加を誘う。ラビは、息子に、「それは、わしらのやり方ではない」と止めるが、「そんな時じゃない」と言い、若者4人で癒し手の家に向かう。行く手には、首領に付いてきた4人の男が待ち受けている(1枚目の写真)。「何の用だ?」。「お前らは人殺しだ。村から出て行って欲しい」。「誰も、どこへも行かん」。ヤコブが拳銃を取り出して狙おうとするが、争いには慣れていないので、男の棍棒で叩き落とされる。それを合図に4対4の取っ組み合いが始まるが、優勢なのはビンヤミンだけ。彼は相手をやっつけると、草の上に落ちているヤコブの拳銃を拾い、石でヤコブを殺そうとしていた男の頭部を射抜く〔何度も書くが、当時の銃には、初心者が的を正確に狙えるような精度はない〕。ヤコブが嬉しそうに立ち上がると、今度は家から出てきた首領によって心臓を撃たれて即死する(2枚目の写真、矢印は銃弾が貫通した跡)。ビンヤミンは、続いて撃とうとするが、そもそも連射式ではないので、弾は出ない。ビンヤミンは、他の男に後ろから棒で殴られ、地面に倒れたところを棒で首を押えられ、殺されかける。その時、いきなり男の頭が爆発する(3枚目の写真)。驚く首領の見たものは、手を掲げた小さな少年。少年の横にはハンナが付き添っている(4枚目の写真、矢印は血で染まった手)。

     

首領は、近づいてくるゴーレムに弾を込め直して3発撃ち込むが、ゴーレムは平然と歩き続ける(1枚目の写真、矢印は、弾がゴーレムに当たった時に飛び散った埃)。弾が当たる度に、ハンナも衝撃を受けるが、それは、ちょうど防弾チョッキを着ている時の動きに似ている〔「18世紀に入り、次弾発射まで15-30秒とかなり縮められた」との記述があるので、17世紀の段階では短時間での連射は不可能のハズ〕。ゴーレムが、首領の心臓をえぐり出そうと手を構えると、ハンナが止める。そして、首領に向かい、「娘を連れて、私たちの土地から出てお行き。今すぐ!」と命令する。首領は、娘を抱いて村を出て行く(2枚目の写真)〔残りの2人の部下はとっくに殺されている〕。ゴーレムを連れたハンナは、村人から英雄扱いされる(3枚目の写真)。

    

夜になり、ビンヤミンが家に帰ってくると、ハンナが笑顔で迎える。夕食の場の隣の小部屋にはゴーレムが人形で遊んでいる。「俺たちは攻撃しないんだな?」。「もちろんよ。守護者だから」。その時、ゴーレムは振り向き、ビンヤミンを見ると、部屋に入ってきて食卓に座る(1枚目の写真)。ハンナはその前にスープを置く。そして、ビンヤミンに「一緒にどう?」と声をかける。ビンヤミンが食べ始めると、ゴーレムは自分の前に置いてあったナイフを取り、自分の腿(もも)に突き刺す。ゴーレムにとって痛くはないが、ハンナには強烈な痛みが走り、思わず叫ぶ。ビンヤミンは、驚いて「どうした?」と訊くが、ハンナはゴーレムをじっと見て、「大丈夫」と答える〔ハンナにも傷はない〕。そして、「この子、音楽が好きなの。弾いてやって」と言う。ゴーレムは、さっそくバイオリンを持ってくる。ビンヤミンは弾きながら、「音楽は俺たちの物語だ。幸福、悲しみ、聖なる時、生と死」と説明する。ゴーレムは、無表情でビンヤミンをじっと見つめる(2枚目の写真、矢印はバイオリン)。そして、寝る時間。屋根裏に置かれたベッドに横になったゴーレムに、ハンナは優しくキスをする(3枚目の写真、矢印)。

    

1階に戻ったハンナは、家を出て行こうとするビンヤミンを引き止め、キスをする。その先は、激しいベッドシーン。以前の、避妊薬を塗りながらの形式的なセックスとは全く違っている(1枚目の写真)。ハンナはビンヤミンの子を宿そうと本気で願っている。同じ頃、愚かな癒し手は、再び勝手に家に入り込み、屋根裏に上がって行く。そして、「神の名において汝に命じる、大地に戻れ。灰は灰に、塵は塵に」と唱える(2枚目の写真)。癒し手は、口の中の羊皮紙の巻物を取ろうと手を伸ばす(3枚目の写真、ゴーレムの目が黒い)。

    

愛の行為が終わった2人がベッドで寝ていると、ビンヤミンの枕に天井から血が一滴ずつ落ちてくる。落ちた血が流れ出すほどになった時(1枚目の写真、矢印)、ビンヤミンは目を覚ます。彼が不審に思って天井を見上げると、板の隙間から血が大量に染み出ている。ビンヤミンはハンナを起こさず、一人で屋根裏に上がって行く。ベッドは空になっている。そして、櫃の周りには血が溢れている。蓋を開けると、そこには癒し手の惨殺死体が入っていた(2枚目の写真)。ビンヤミンは、慌てて下に降り、寝室に行こうとするが、ドアのところにはゴーレムが立っている(3枚目の写真)。その時、音で目が覚めたハンナが、「どうしたの?」と訊く。「ここから出て行くべきだ」。「何を言ってるの?」。「そいつはペルラを殺した。多分サラ〔後家〕もだ。救済者なんかじゃない。怪物だぞ。悪魔だ」。「ただのちっちゃな子供じゃない。邪悪なところなんかないわ」。「違う。ハンナ、そいつは殺さないと」。「ここでは、そんなことさせないわ」。ビンヤミンは、それ以上の説得をあきらめて逃げ出す〔癒し手さえ愚かな行為に走らなかったら、この後の惨劇はすべてなかったであろう。その意味で、癒し手の責任は重大だ〕

    

ビンヤミンが走っていった先はシナゴーグ。ラビに、「父さん、ハンナを助けないと。ゴーレムがペルラを殺した。この目で見たんだ」と訴える(1枚目の写真)。ラビは、「ミニヤーン〔ユダヤ教の公的礼拝〕ができるよう10人の忠実な男たちを集めよ。プルサ・デノウラ〔דנורא פולסי、炎の鞭、カバラによる強烈で禁断の呪い〕で、破壊する」と告げる。一方、首領ブラッドミアの家では、娘が息絶えていた。彼は復讐を誓う〔彼は、ペストの流行はユダヤ人による呪いだと固く信じている。しかも、ユダヤ人は新たな呪いを駆使して恐ろしい怪物まで創り出した〕。画面に映っているだけでも30名ほどの男たちが、夜の闇をつき急襲すべくユダヤの村に向かう。こんな時こそ、ゴーレムの力に頼らなくてならないのに、ビンヤミンは父に言われた通りにする。バイオリンを弾いてゴーレムを誘い出すと、そのまま男たちと一緒に父の待つシナゴーグに向かう(2枚目の写真、矢印はバイオリン)。ハンナは眠ったままだ。シナゴーグの中には、数多くの蝋燭が点けられている。ゴーレムはその中に連れてこられ、ラビと対面する(3枚目の写真)。

    

ゴーレムは呪文を唱えるラビをじっと見つめる(1枚目の写真)。呪文が効き、時々、頬がゴーレムの肌に変わる。異変はハンナにも通じた。「息子」に危機が迫っていると悟ったハンナは、家を飛び出ると、「止めて!」と叫びながら、シナゴーグ目指して全速で走る(2枚目の写真、矢印)。シナゴーグに着いても、扉は閉まっていて開かない。「入れて!! 息子を殺さないで!!」と扉を叩きながら叫ぶが、反応はない。一方、村に辿り着いたブラッドミアの軍は、片っ端から木造の家に火を点けていく(3枚目の写真)。

    

ラビがショファー(角笛)を吹くと(1枚目の写真)、ゴーレムの顔から砂が落ちる(2枚目の写真、矢印は砂)〔分解し始めている〕。そして、外では、ハンナの姿を認めたブラッドミアが、松明をかざしてハンナ目がけて馬を駆る。それを知ったハンナは敢えて背を向けて観念し、「ヨセフ」と祈るように呼ぶ。そのハンナの後頭部を、ブラッドミアは駆け抜けざまに松明で強打する(3枚目の写真、矢印はハンナの頭と松明がぶつかった点、ブラッドミアの馬は左から右に走っている)。

    

この衝撃で、ゴーレムも前のめりに倒れる。そして、「母」を救うことが最優先事項となる。ラビの効果の薄い呪文など雲散霧消し、ゴーレムはショファーをラビの胸に突き刺す(1枚目の写真、矢印)。他の男たちも、「敵」としてバラバラにされる。外では、ブラッドミアが止めを刺そうと斧を持ってハンナに向かって歩いていく。そして、斧で殺そうとした時(2枚目の写真)、後ろからゴーレムの手がブラッドミアの心臓をつかんで後ろに引き抜く(3枚目の写真、矢印は心臓を抜き取る時にできた穴の跡)。

    

ゴーレムの顔は、真っ黒な目と 血管の浮き出た顔に変わり(1枚目の写真)、破壊魔となる。馬で乗りつけた敵は、頭を吹き飛ばされ(2枚目の写真、矢印)、村人も次々と心臓を抜き取られていく(3枚目の写真、矢印)。

    

累々たる死体。そして火の海。世界の終わりのような光景。ゴーレムによる凄まじい破壊の後だ。ハンナが意識を取り戻すと、近くにビンヤミンが立っている(1枚目の写真)。ビンヤミンは、「あれは、俺たちの息子じゃない。息子は死んだんだ」と言い聞かせ、「お願いだ、ハンナ」と頼む。ハンナは、反対側に立っているゴーレムに歩み寄る。そして、体をつかんで座らせる(2枚目の写真)。ハンナは、「私の、可愛いヨセフ」と言いながら、血まみれのゴーレムの頬を手で包む(3枚目の写真)。

    

「あなたは、いつも私のちっちゃな坊やだった。心から愛してるわ。でも、もう別れないといけないの」。そう言いながら、ハンナは涙を流す。「安らかに眠ってね、愛しい子」。そう口にすると、ハンナはゴーレムにキスし、口の中から羊皮紙の巻物を抜いていく(2枚目の写真、矢印)。抜き終わったゴーレムの体からは砂が舞い(3枚目の写真、矢印)、やがて、すべてが土に戻る。ハンナは、ずっと泣き続けている。ビンヤミンは、手を差し出して立たせると、抱き合う。土の上に残されたものは、ゴーレムが最後まで持っていたヨセフの人形だった。悲壮感のあるエンディングだ。何度も書くが、愚かな癒し手さえ勝手なことをしなければ、ゴーレムはブラッドミアの全軍を消滅させ、村人から愛され続けたかもしれない。

    

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